健康管理担当者が知っておきたい、職場支援の視点
月経、PMS、更年期、不妊治療、婦人科系疾患―女性の健康課題は、本人の体調や生活の質だけでなく、仕事のパフォーマンスや就業継続にも影響する重要なテーマです。
しかし、こうした不調は外から見えにくく、本人も周囲も「仕方のないこと」と受け止めてしまいやすいのが実情です。
健康経営が重視される今、企業には女性の健康課題を正しく理解し、誰もが安心して働ける職場環境を整備することが求められています。
女性の健康課題は、企業にとっても重要なテーマ
人的資本経営や健康経営への関心が高まる中で、従業員一人ひとりが安心して働き続けられる環境づくりは、企業の持続的な成長に直結する課題になっています。
なかでも女性の健康課題は、単なる個人の体調管理の問題ではありません。
月経、PMS、更年期、不妊治療、婦人科系疾患などは、業務効率や集中力、コミュニケーション、さらには就業継続にも影響しうるため、企業として正しく理解し、必要な支援を検討する意味があります。
経済産業省も、女性特有の健康課題を、経営者が理解し職場環境を適切に整備することで改善が期待される重点テーマと位置づけています。
見えにくい不調ほど、職場では後回しにされやすいものです。
本人が「我慢するしかない」と感じていたり、上司や同僚がどう声をかけてよいか分からなかったりすることで、支援の必要性が顕在化しないまま負担が積み重なることがあります。
健康管理担当者には、制度を用意するだけでなく、こうした課題を“職場で起こりうる健康課題”として捉え直し、社内の理解につなげる役割が求められまます。
引用:女性の健康推進室ヘルスケアラボ 「厚生労働省事業」東京大学産婦人科学講座・国立成育医療研究センター監修

ライフステージごとに変化する女性の健康課題
女性の健康課題を考えるうえで大切なのは、それらが一時的なものではなく、ライフステージに応じて形を変えながら続くテーマであるという視点です。
思春期から性成熟期には、月経痛、PMS、月経不順、貧血、子宮内膜症、子宮筋腫などが身近な課題となります。
妊娠・出産期には、身体の変化に加えて通院や働き方との両立が課題になり、更年期には女性ホルモンの減少に伴うさまざまな不調が現れやすくなります。
現代女性は、妊娠・出産の機会の変化などにより、生涯の月経回数が昭和初期に比べて9〜10倍に増えているとされています。
そのため、月経に伴う不調や女性ホルモンに関連する不調と向き合う期間も長くなっています。企業としては、女性の健康課題を一部の年齢層の問題として切り分けるのではなく、長い職業人生の中で多くの従業員が関わりうるテーマとして理解することが重要です。

月経痛やPMSは、仕事への影響も小さくない
月経関連の不調は非常に身近でありながら、職場では見えにくい課題の一つです。
厚生労働省の資料では、8割以上の女性が月経痛を感じているとされ、PMSの症状を抱える人は日本人女性の50〜80%程度にのぼると紹介されています。
つまり、月経やPMSに伴う不調は決して一部の人だけの問題ではなく、一定数の従業員が日常的に抱えうる健康課題だと考える必要があります。
PMSは、月経前の3〜10日ほどに現れ、月経が始まると軽快または消失する身体的・精神的な不調です。
症状としては、頭痛、むくみ、疲労感、腹部膨満感、乳房の張りなどの身体症状に加え、イライラ、不安、抑うつ気分、気分の変動などの精神症状がみられます。
本人にとっては“よくある不調”でも、会議での集中力、顧客対応、判断のスピード、周囲とのコミュニケーションに影響することがあり、結果として業務全体のパフォーマンスにもつながります。
実際に、厚生労働省資料では、月経随伴症状によって仕事のパフォーマンスが元気なときの半分以下になる人が45%いることが示されています。
ここで重要なのは、欠勤していないから問題がないとは言えない点です。
出社していても、集中しづらい、体調がつらい、普段通りのパフォーマンスが出せないという状態は起こりえます。健康管理の現場では、欠勤や休職だけでなく、プレゼンティーイズムの視点から不調の影響を捉えることが必要です。
更年期は、中核人材の就業継続にも関わる課題
更年期もまた、企業が見過ごせない健康課題です。
更年期は閉経の前後約5年ずつ、合計10年程度を指し、日本人の平均閉経年齢は50.5歳であることから、一般的には45〜55歳頃にあたります。
この時期は、多くの企業において中堅層や管理職、専門性の高い職種を担う人材が多く、組織にとって重要な戦力層と重なります。
更年期症状というと、のぼせや発汗のイメージを持たれがちですが、実際には疲れやすさ、肩こり、冷え、動悸、睡眠の質の低下、イライラ、気分の落ち込みなど、症状は多岐にわたります。また、症状の出方には大きな個人差があり、同じ年代でもまったく状態が異なることがあります。
そのため、本人も周囲も「更年期だから」と単純に片づけず、必要に応じて相談や受診につなげられる環境が重要です。生活に支障が出る場合は、更年期障害として治療による改善が期待できるとされています。
経済産業省は、月経随伴症、更年期症状、婦人科がん、不妊治療による労働損失などを合わせた社会全体の経済損失を年間約3.4兆円と試算しており、そのうち更年期症状による損失は約1.9兆円と最も大きいとしています。
女性の健康課題は、福利厚生の一環として考えるだけでは不十分であり、人材定着や生産性、組織運営にも関わるテーマとして捉える必要があります。


健康経営における女性の健康支援の取り組み例
健康経営の取り組みにおいても、女性の健康保持・増進は重要なテーマの一つとなっています。
まず必要なのは、ヘルスリテラシーの向上です。
企業が実施できる取り組みとして、
- 女性向け健康セミナー
- 全従業員向け研修
- eラーニング
- 管理職研修
- 社内報や健康だよりによる情報発信
などがあります。
特に管理職には、
- 月経随伴症状や更年期障害の基礎知識
- 業務パフォーマンスへの影響
- 適切な声掛けや傾聴スキル
- 個人情報保護の考え方
- 利用可能な制度や相談窓口
などの理解が求められます。
女性の健康支援は制度だけでなく、日常の職場環境整備も重要です。
例えば、更年期症状によるほてりや発汗への対応として、
- 空調の柔軟な運用
- 卓上扇風機の利用
- 服装規定の柔軟化
などが考えられます。
また、月経痛や体調不良への対応として、
- 休憩を取得しやすい運用
- 横になれる休養スペースの確保
- 身体的負担の大きい業務の一時的軽減
なども有効です。
さらに、
- 生理用品の設置
- 女性専用休憩室の整備
- トイレや更衣室の充実
- ウォーターサーバーの設置
なども安心して働ける職場づくりにつながります。
重要なのは「特別扱い」ではなく、一人ひとりの健康状態に応じた合理的な配慮を行うことです。
制度は「あること」より「使えること」が大切
次に重要なのは、相談や受診につながる導線を整えることです。どれだけ制度が整っていても、使いにくければ支援にはなりません。
たとえば、婦人科受診や通院と両立しやすい柔軟な勤務制度、休暇制度の周知、産業医や保健師、人事との相談窓口の整理、プライバシーに配慮した相談フローの明文化などは、実務上のハードルを下げるうえで有効です。
特に、PMSや更年期の不調は日によって波があり、本人も詳細を説明しづらいことがあります。そのため、「すべてを具体的に話さなくても相談できる」「相談したことが不利益につながらない」と感じられる仕組みが重要です。
体調の変化を申告した人だけに特別対応をするのではなく、柔軟な働き方を全社的に整えておくことが、結果として誰にとっても利用しやすい支援につながります。
“早めに相談できる文化”が、就業継続を支える
女性の健康課題では、不調があっても「何もしていない」人が多いことが厚生労働省資料で示されています。
厚生労働省 働く女性の健康課題とその対策
つまり、課題は制度の不足だけではなく、相談や受診に結びつく前の心理的ハードルにもあります。健康管理担当者に求められるのは、「つらいときは相談してよい」「受診することは大げさではない」「我慢し続けるより早めにつながるほうが働き続けやすい」という認識を社内に根づかせることです。
PMSは、仕事や学校、社会活動、人間関係に著しい支障が出る場合には受診の目安になるとされています。また、更年期の不調も、生活に支障が出る場合には治療による改善が期待できます。
企業としてできることは診断をすることではなく、必要なときに適切な相談先や医療につながりやすくすることです。健康管理部門が継続的に発信し、相談しやすい空気を育てることが、結果として就業継続や人材定着の支えになります。
まとめ
女性の健康課題への対応は、女性だけの問題ではありません。
健康経営の推進、生産性向上、人材定着、女性活躍推進など、企業経営に直結する重要なテーマです。
まずは正しい知識を広めること。そして相談しやすい環境を整え、一人ひとりの健康状態に応じた配慮を行うことが大切です。
誰もが安心して働ける職場づくりは、結果として組織全体の働きやすさや生産性向上につながります。
女性の健康支援を「福利厚生」ではなく「経営戦略」の一つとして捉え、できることから取り組んでいきましょう。
引用:厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
経済産業省 女性特有の健康課題による経済損失の試算と、健康経営の必要性について
厚生労働省 働く女性の健康課題とその対策
経済産業省 健康経営における女性の健康の取り組みについて